すーさんぶろぐ

\すーろぐだよ/

おい中村

バスに乗って池袋駅まで行くと、家からおよそ25分かかる。
車内ではスマホで漫画を読むか、LINEの返信をするか
参考書を取り出して資格試験に必要な用語をちらちら見るかして過ごす。
わたしは、業務時間外に仕事のことを考えないし、
家庭もないから、自分のためだけに余暇を過ごしている。


隣の席にいたサラリーマン風の男性が、
終点の池袋駅東口まであと少しのタイミングで、電話をかけはじめた。
「19時に予約した中村ですけど~すみません遅れそうですぅ」
金曜夜、いつもより人通りの多い池袋だ。
バスが止まると同時に中村が駆け出して、雑踏の中に消えていく。


どんな場所かは分からないけど、急いで向かう先があるのは羨ましい。
誰かの、何かの予定に合わせて、ダッシュ
急ぎ足で行きかうこの街の群衆へ、仲間入り。


物心ついてから今まで、理由はないけれど寂しいと感じる瞬間がある。
自分のためだけに過ごす時間を、全部とは言わないまでも
少し変化させてみたくなった。
中村とすれ違った、マイペースな30歳の記録。

 

バスの妖精